而して

ノートとかメモとか。

中国式剰余トレーニング

計算力をつけるための中高生向けのトレーニングとして、中国式剰余定理の問題を使うのはどうだろうか、という話を書きます。ただし、僕は教育論をまったく知らないので、あくまで素人の意見です。

「中国式剰余定理」と聞くと物凄く難しそうに聞こえますが、「中国式剰余定理の問題」というのは次のようなものです。

7で割ると3余り、15で割ると2余るような整数は?

答は無限にあるのですが、例えば17は上の条件を満たします。どのように解くかというと、

 7x+15y=1 となるような整数  x, y何でも良いから1組見つける。

例えば  7 \times (-2) + 15 \times 1 = 1 とか  7 \times 13 + 15 \times (-6) = 1 とか。どちらでも良いですが、今回は前者を採ってみます。

② 次のように「斜め掛け」する。

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 7 \times (-2) \times 2 + 15 \times 1 \times 3 = -28 + 45 = 17 となります。

これで17が求められています。もう一題やってみましょう。

5で割ると3余り、7で割ると2余るような整数は?

 5 \times 3 + 7 \times (-2) = 1 とか。他には  5 \times (-4) + 7 \times 3 = 1 とか  5 \times (-18) + 7 \times 13 = 1 など。

② 斜め掛けします。① の式を  15 - 14 = 1 と計算しておいてokです。

 15 \times 2 + (-14) \times 3 = 30 - 42 = -12 となります。

負の整数になってしまいました。実は負の整数についても割り算は可能で、その意味で  -12 という答はちゃんと正しいのですが、やっぱり正の整数の方が見栄えが良いので、調整します。

 5 \times 7 = 35 を適宜足し算して調整する。

 -12 + 35 = 23 。ちなみに何回足しても引いても良いです。だから、他には  35 + 23 = 58 とか  -12 - 35 = -47 など。

もう一題やってみます。

5で割ると3余り、4で割ると1余るような整数は?

 5 \times 1 + 4 \times (-1) = 1 とか。他には  5 \times (-3) + 4 \times 4 = 1 など。

 5 \times 1 + (-4) \times 3 = 5 - 12 = -7

 5 \times 4 = 20 を使って調整する。 -7 + 20 = 13

なぜこのようにしたら解けるのかというのは、この記事の最後に書きます。

提案するのは、以上の手順を暗算で行うレーニングです。

この計算トレーニングの良いところは、

「①で数を感覚で見つけるところ」

ある程度九九に慣れていないとすぐに出せません。つまり、九九慣れができます。またこの勘は、高校1年次の「数学A」の「1次不定方程式」という分野で活躍します。

「②で斜めがけをするところ」

やってみると分かるのですが、斜めに掛けるというのを頭の中でやろうとするとこんがらがりそうになります。また、手順として「 5 \times 1 = 5」「 (-4) \times 3 = -12」「 5 - 12 = -7」と、3段階ほど踏まねばなりません。2段階目を計算した後には、1段階目の計算結果が何だったかを思い出す必要があります。②の計算を頭の中で行うのは一癖あります。

「結果が面白いところ」

この方法を知らないで、こういった「〜で割ると〜余り、〜で割ると〜余る数は?」と言われると難しいです。実際に求めた数で、問題文をちゃんと満たしているかを確認してみると面白いです。これで検算の癖がつくとなお良いと思います。「なぜこの手順で求めることができるのか?」ということに興味を持ってくれたら、もっと良い。

 「実用的なところ」

公立中学入試の数学の最後の大問で、この知識が生きてくる場合があります(例えば千葉県平成30年後期大問5)。僕が中学入試をした時もこの類の問題はやったことがありましたし、高校受験用の模擬試験でも見かけたことがあります。

問題を作るのが簡単なところ

問題作成のポイントですが、「Aで割るとB余り、Cで割るとD余る数は?」という文面で、AとCは互いに素(公約数が1のみ)でなければなりません

例えば、「2で割ると1余り、6で割ると3余る数は?」という問題は、2と6が互いに素でないので不適当です。

また、BとDはそれぞれA、Cで割った余りですから、BはAよりも、DはCよりも小さい正の数であると自然です。

例えば、「3で割ると4余り、5で割ると6余る数は?」という問題よりかは、(3で割って4余るということは、まだ3で割れるので)「3で割ると1余り、5で割ると1余る数は?」という問題の方が自然です。

また、先にも述べましたが、答は無限にあります。あらかじめ「正で最小のものを求めるように」と条件を加えておくと良いと思います。

 

完全に私見なのですが、こういうのをスキマ時間に挟んであげたら、計算力が上がるような気がします。今日思いついたばかりなので、しばらく弟で実験しようと思っています。数学の苦手な中学生の弟ですが、試してみたら意外と食いつきが良かったです。本人は「凄い」と言っていました。

定理の証明

補題 m, n を互いに素である整数とするとき,  ma + nb = 1 となる整数  a, b が存在する.

(証明) S = \{mx+ny\ |\ x, y は整数 \} とする.  S の元のうち, 正の整数で最小のものを  s = m x _ 0 + n y _ 0 とし,  m s で割り算して  m = qs + r  (0 \leqq r \lt s) とすると,  r = m(1-qx _ 0) + n(-qy _ 0) \in S である.  r \gt 0 とすると  s の最小性に反するので  r = 0, すなわち  m s で割り切れる. 同様にして  n s で割り切れる. よって  s m n の公約数である.  m, n は互いに素であったから  s = 1 となる. したがって  x _ 0, y _ 0 が求める  a, b である. (終)

(中国式剰余定理) m, n を互いに素である整数とするとき, 補題によって, ある整数  a, b があって  ma + nb = 1 となる. このとき, 

 \ast)「 m で割ると  x 余り,  n で割ると  y 余る整数」

として  may + nbx は条件 ( \ast) を満たす. また, ( \ast)を満たす数はすベて  may + nbx + (mn の整数倍 ) という形をしている.

(証明) S = \{s \in \mathbb{Z}\ |\ s は( \ast)を満たす \},\  T = \{may + nbx + mnt\ |\ t \in \mathbb{Z}\} とし,  S=T を示せばよい.

 may+nbx = may + (1-ma)x = x + m (ay - ax)

より  may+nbx m で割った余りは  x で,

 may+nbx = (1-nb)y + nbx = y + m (bx - by)

より  may+nbx n で割った余りは  y であるから,  may + nbx \in S である.

任意に  may + nbx + mnt \in T をとると,  mnt m, n で割った余りはそれぞれ  0 だから,  may+nbx + mnt m, n で割った余りはそれぞれ  x, y となるので  may+nbx \in S.

逆に  s \in S を任意にとれば,  s may+nbx m, n で割った余りがそれぞれ等しいのだから,  s - (may+nbx) m, n で割り切れて,  m, n が互いに素だから  mn で割り切れる. すなわち  s - (may+nbx) = mnk となる整数  k が存在して  s = may + nbx + mnk \in T. (終)

(コメント)この  may+nbx という表記は[1]で用いられていましたが, 今まで見てきた中国式剰余定理の証明の中でも一番覚えやすくて好みだったので, そのまま使いました.

Reference: [1] 雪江明彦『代数学1 群論入門』日本評論社, 2010.